『負け犬の遠吠え』を読んで 西園寺 負け犬 歌名
前回宣言したとおり、今回は読後コラムである。
読んだあとの衝撃が大きくて(というか、へこみ具合がひどくて)、
遅くなってしまった。
ごめんなさい。。。
新ジャンル(?)である「読前コラム」を試してみた『負け犬の
遠吠え』(著者:酒井順子さん)だが、読後の感想は一言、
「ヤバい・・・」だった。「なんか面白そう」と思い、読むのを
楽しみにしていたのだけれど、私はどうやら甘かったようだ。
この本については、感想をWEBで発表している方は結構いらして、
中には、「痛くて笑える」というようなことを書かれている方も
あったが、私の場合、正直、かなり焦りを感じた。
というのも、酒井さんは「30代後半の負け犬」としての自身のご意
見を書かれてもいて、そこここに、「気付くのが本当に遅すぎるの
ですけれど」というフレーズが出てくるのだ。そして、30代前半の
「後輩負け犬」に対して「今のうちに焦ったほうがいい」といった
ことをおっしゃっている。このことが私をじわじわと焦らせ、自分と
酒井さんの状況を比べたとき、その焦りがさらに増幅したのだ(BGM
は「ジョーズのテーマ」でお願いします。古いですが)。
酒井さんによれば、「30代以上、未婚、子ナシ」の条件に当てはまる
女性はみな「負け犬」に分類されるのだが、その多くは、「高学歴、
高収入」で、そんなにモテないのでもなく、むしろ若者文化にも精通し
ている女性のようなのだ。
「負け犬」のメインストリームである「高学歴、高収入のかっこいい
独身女性」である酒井さんでさえ、早く焦るように、と私たち30代前半
のキャンキャン吠える負け犬に言っておられるのだ。
先日、短期契約で請け負っていた仕事もなくなり、とうとう無収入と
なった私には、数年後に訪れるであろう現実は、脅威というほかない。
そう、酒井さんはご自分の置かれた状況を「負けと認め」ていらっしゃ
るけれども、「別にそれでもいいじゃない?」という声が同時に行間
から聞こえてくるような感じがするのは、そして負けを認めるとおっ
しゃっていても、別に悲壮感など漂っていないのは、やはり酒井さんに
「経済力」という燦然と輝く屋台骨があるからだと思うのだ。
私などから見たら、やっぱり「かっこいい」のだ。酒井さんは、ご自分
の好きなことを職業にしておられ、それに「経済力」がついてきている
(ように見える)。「ははーっ」と言いながら、その後光の差すお姿を
崇めずにはおれない……。
ぜひとも「負け犬」に分類される方々に聞いて回りたい。この本を読ま
れた感想を。
たしかに、経済力のある負け犬のみなさんも「今は大丈夫だけど、老後を
考えると、ねぇ。私だって不安よ」とおっしゃるかもしれない。でも、
私のように経済力のない負け犬のみなさんの感想は、きっときっと違うと
思う。
私も、今の自分に経済力があれば、この本を読みながら「あはは。いたた
た」とかなんとか言って笑えただろう。本を閉じた後も「そうよねーっ」
なんてお酒を飲みながら負け犬仲間と話をすることもできただろうと思う。
でも、でも笑えないのである。ひたすら、怖い。「ヤバい、ヤバい。一刻も
早くなんとかしなくては……」という思いが、本を閉じた後もついてくる
のだ。だって、読めば読むほど自分が生きて行く道が見えなくなっていくの
だもの。「なんとかなるかも(?!)」という甘い考えが、打ち砕かれてしま
うんだもの。
世の「低収入」の負け犬諸君!
この本は、面白い。興味深い。
でも、諸君のうち何人かにとっては、この本は、ホラーであると私は思う。
そして同時に、福音書でもあるのではないかと思うのだ。
30歳を過ぎてもひとりでいることを「普通でない」と言ったり「早く結婚した
方がいい」と言う人は、減ってきている。言えなくなってきているのだ。だか
ら、私たちはそういった聞きたくない言葉を聞かせる人に会わずに年齢を重ねる
ことがしやすくなっているのだ。それは心地よい。でも、そうやって過ごす時間
は、手遅れにむけての時間かもしれないのだ。
それを、この本は教えてくれたように思う。
経済力を持つよう、これまで以上に必死になって働き、少しずつでも貯金をする
ことに腐心するか、早く勝ち犬になるよう努力するか。それを早目に考える機会
を、いま敢えて与えてくれた『負け犬の遠吠え』。
ま、もっとも、酒井さんはそういう意図では書かれていないかもしれないんだけ
れど。
(了)
投稿者 西園寺 歌名 : 2004年04月05日 12:26 | トラックバック